キャロル
久しぶりにとてもいい映画を見た気分です。
映画の中で特に気になった表現があったので調べてみました。
“Flung out of space”
不思議なフレーズです。
そう思った人は私だけはなかったようで、グーグルで検索してみると、”キャロル”の名前と一緒にたくさんの人がどういう意味なのか質問したり、解釈したり批評したりしています。
このフレーズは直訳しようと思えば出来ないこともないけれど、どうにも物語の内容に合わない。
Flung outは放り出す、投げすてるの意味があり
スペースは”宇宙”なのか”空”なのか”空間”なのか。
奇妙にも思える表現だけれど、映画の中の重要なキーフレーズであることは間違いありません。
でも”宇宙から放り出された”では全くぶっきらぼうに聞こえるし、品も愛情のかけらもないですね(笑
いろいろ考えて、”空から舞い降りてきた”だったらどうだろうと思ったのですが、これもなんとなく違う。
これだとまるで”おとぎ話”のようになってしまう。
あれこれ調べているうちに、脚本を書いたフィリス・ナジーがツイッターでこのフレーズの意味を答えてるのを発見しました。
”空から落ちてきた、エイリアン(得体の知れないもの)のような、珍しい鳥のような、見るに風変わりで魅惑的なもの”という意味だと言っています。
腑に落ちるような落ちないような。
このフレーズはキャロルが彼女を主体として発した言葉であって、決してテレーズが風変わりというわけではないような気がします。
映画キャロルは二人の女性の物語。時代設定は1952年のニューヨーク。
イタズラに始まったように見えたけれど
二人の女性の物語は情熱的で純粋な”愛”の話に展開していく
ここまで息を凝らしながら映画を見たのは久しぶりです。
情熱的な愛の物語。
でもやっぱり心が動かされたのは映画の同性愛という設定に影響されたことは否定できないかもしれません。
キャロルは裕福でお手伝いさんのいる立派な家に住み、
ビジネスマンの夫・ハージとの間には一人娘のリンディーがいる。
しかしビジネスで忙しい夫とは気持ちが離れ、離婚調停中。
子供の親権でもめている。
エレガントに身を包み理性的で冷静だけれども、同時にミステリアスで危険な雰囲気を持つ。
彼女は高飛車に振る舞うも、娘のこととなるととてももろい。
母親なら当たり前のことなのだけれど、なんとなくキャロルには”似つかわしくない”ように見える時もある。
このギャップともいえる側面がキャロルの魅力でもあるのかも。
テレーズはクリスマスシーズンだけデパートで働いている普通の女の子。
キャロルとは正反対で裕福でもなく、質素な服装で小さなアポートに一人で住んでいる。
リチャードという彼がいてプロポーズされているけれど、どうにも決められない。
映画では年齢の設定はないけれど、若く何をしたいのか、何が欲しいのか、
リチャードへの愛情もなんとなくよくわかっていない、淡々とした日々を過ごしている。
趣味が写真を撮ることで、なんとなく写真に関わる仕事をしたいと思っている。
クリスマスが近いある日、デパートの子供用のプレゼント売り場の向こうで電車のおもちゃを眺めるキャロルを見つける。
キャロルと目が合い、一度は見失なうも、次の瞬間キャロルはテレーズの目の前に現れる。
娘のクリスマスプレゼントの人形を探しに来たけれど在庫がなく、テレーズが勧めたトレインセットをその場で購入。キャロルが去った後テレーズはキャロルが彼女の皮の手袋をレジのカウンターに忘れたことに気づく、それをテレーズは郵便で届けた。
キャロルが皮の手袋を忘れたのはただの偶然か、それともわざとか。
普通なら偶然と考えるのだろうけど、キャロルのキャラクターが計算していたようにも見える。
テレーズはあやふやにもキャロルに惹かれている自分に戸惑いを感じつつ、
キャロルのいくつかの突然とも言える誘いに迷いなく”Yes”と答える。
やがて二人は体を重ね始める。
映画はどちらかというと淡々と進んでいくのだけれど、途中暗いミステリーになるような気もするし
見苦しく醜い展開になるような気もする。
ゲイという関係がまだ受け入れられていなかった時代に、こんな二人の女性の物語があったという
だけの話になるのかもしれない、とも思いました。
同性愛というテーマはどうしても振り払えないけどれど、
再び出会い見つめ合う二人の姿を見た時”あぁこれは愛の話なんだ”と最後の最後に思わせてくれた。
ケイト・ブランシェットの演技は本当に素晴らしい。
”I love you”といったキャロルの言葉は私が今まで見てきた中で一番心に響くものでした。
このシーンを見た後で、キャロルにとってテレーズが”Flung out of space”だったことが理解できたような気がします。