映画がとてもよかったので、原作を読んでみました。

原題は「The price of salt」

The Price of Salt (Carol)Illustrated Edition【電子書籍】[ Patricia Highsmith ]

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日本語で直訳はしたくないですね(笑、でも英語だと何か含みのある情緒的なタイトルです。

それから物語のベースは同じですが、やはり映画の脚本となると多少変わるものです。

原作の小説の方は、なんというか、もっと現実味があったというか、人間臭さがあったというか、感情描写が細かく書かれているので行間を読んだりすることがなくさらさらっと読めた感じです。

小説はどちらかというとテレーズの物語、テレーズを主体として書かれていて、

テレーズがキャロルと出会うことにより自分の知らなかった自分や感情を発見し、傷つき、乗り越えていく様が綴られています。

映画の中ではテレーズがよくわからない気持ちの状態から徐々にキャロルに対する意識を自覚して、どちらかというとキャロルに応える、という設定ですが、小説ではテレーズの方が先に前に進み、キスしていい?と聞きますし、一緒に眠りたいと言いますし、先に”I love you”と告白します。

小説の中でキャロルはテレーズをあしらったりそっけない態度をとったり叱ったりもします。二人が最後に再会する際はテレーズが車を返すためにキャロルに連絡する設定で、キャロルの方がテレーズに対してはほぼ受け身。

原作はハイスミスの半自伝的な小説らしいので、(テレーズのモデルはハイスミス自身)テレーズが主体なのは自然なことかもしれません。

私が安心するのもおかしな話ですが、それだけ感情移入がしやすくテレーズというキャラクターへの距離を身近に感じました。

この小説が売れたのは同性愛というテーマの他に、当時の大抵の同性愛の物語が悲しい結末で終わっているのに対し、未来のあるハッピーエンディグで終わるというのが大きく影響しているとハイスミスは言います。

映画の途中までは私も不幸に終わりそうなドラマだと思っていました。なので、テレーズが初めてとも言える大失恋を乗り越えてくれて安心したのです。

小説の中ではキャロルはあまり感情を出さず、初めから終わりまである意味冷静で、当時の世界がどう回っているか、自分が何をしているか、したいのかを把握している。

しかし映画の中ではキャロルは半ば本能的に行動するのです。

” I never did ” とアビーに答えるケイト・ブランシェットのシーンにはぞくぞくしました。

キャロル [ ケイト・ブランシェット ]

 

小説の中ではキャロルの行動は奇妙ではないけれど、テレーズの目にはリチャードを理解するようには理解できない、全く新しく出会う人種の存在のように映っています。

それからキャロルは旦那と子供を持ったテレーズにはまだ理解することのできない場所にいる人で、結局はキャロルにとって子供のリンディー以上に愛する者はなく、いたずら半分で引っ掛けられ、自分がキャロルにとって通りすがりの存在だったのだと感じている。

二人が再会して最後の最後にテレーズがキャロルへ向かうまでは。

一方で、映画では二人の感情がバランスよく描かれていました。

映画の脚本はキャロルに対しても “ 恋に落ちる “ という恐れや切なさや驚きや喜びなどの鼓動を与え、この愛の物語をさらにロマンティックにしてくれている。

キャロルの感情がなければ映画は50年代のあの時、禁じられたとするレズビアン(同性愛)の色だけが注目されるだけ作品になっていたような気がします。

小説の中で大分違った印象を持ったのがアビーとハージのキャラクター。

アビーは以外と意地悪でした(笑

ハージは以外と攻撃的でした(笑

映画の中ではハージとキャロルは確かに愛し合っていたのだけれど、”うまく行かなかった関係”と描かれているように私は感じましたが、小説の中でキャロルは”ハージは妻というものをカーペットを選ぶように選んだ”と言います。

キャロルに対してのお仕置きは徹底していて、お前のような女には何が何でもリンディーには二度と会わせないぞくらいの勢い。

探偵はどこまでもキャロルとテレーズを追いかけ、ほんとに頭にきます。

あういう無常な世界も現実味を感じさせてくれます。

小説のベースがなければこの映画は生まれなかったのだけれど、同性愛というテーマを払拭させるほどに心を揺さぶる”愛の物語”に仕上げた脚本家のフィリス・ナジーさんの技術はほんとうに素晴らしいです。

キャロルは低予算で製作された映画らしいのですが、監督も脚本家もキャストもとにかく久しぶりに見る完成度の高い作品です。

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